第弐次神界大戦セカンド・アーマゲルドラ』―――――――――

 現代より遙か曾ての事、全宇宙を揺るがす神々による戦争が起こった。
 肆代目“聖創神”阿迦奢あかしゃ 率いる光の軍勢『セイバース』。
 対するは、肆代目“邪潰神”アバドン 率いる闇の軍勢『カイザース』。
 この両軍の戦いの発端は、元より続いていた両軍大将同士のいざこざ、そして、副将同士が引き起こした怨恨の縺れによるものであった。
 それに加え、大戦中盤より、冥界の王、“冥瓏神”ハデス・アンデッタロが『鎧甲冑ノ一族ガルマ・カルマ』を引き連れ、戦乱に便乗する形で参戦した所為もあり、三つ巴の戦いは更に熾烈を極め、多くの犠牲が出る結果となった。
 その戦いの最中の一幕、ある者達の会話が、今回の事件に深く関わっていくとは誰も知る由は無かった――――。

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「流石……だな。噂に聞いていたが……私がここまで追い詰められるか……」
「……いい加減に解放・・をといたらどうだ。俺は今、お前に構っている場合じゃあない……ヴルトゥーム」
 ヴルトゥームと呼ばれる満身創痍の男と、巨大な方天戟のようなものを携えた男。
 どうやら決闘が行われていたが、今にも勝敗が決する状況のようだ。
 しかし、ヴルトゥームという優男は往生際が悪く、息も絶え絶えながら、苦い顔で会話を続けた。
「私には……果たすべき事がある……! その為に、お前の力が必要なのだ……」
「なに……?」
「どうだ……私に協力してはくれないか? 誘いを受けるなら、この不毛な戦いはここで終わる……!!」 
「…………」
 その交渉の答えは、突如駆け付けてきた妖艶な美女の声に遮られた。
「ヴルトゥーム! 大変な事が起きたわよ……!」
「フルール……! 一体何だ……!?」
「ハデス・アンデッタロが……撃退された」
「な…!?」

 先述した第三勢力の長、冥界の暴君ハデス・アンデッタロの撃退の報。
 この事実は、此の場だけでなく、戦場全体の士気に影響を与える程の衝撃であった。
 ハデスは、対する軍の大将である阿迦奢とアバドンと肩を並べる程の実力を持つ邪神。
 生まれ持った強大な力を揮い、“五煉界”随一の戦闘集団『鎧甲冑ノ一族ガルマ・カルマ』を筆頭とした猛者達がひしめく冥界を束ねていたのだ。
 その冥界のトップに立つ邪神の敗走により、三つ巴の戦いの均衡は大きく崩れた。
 当然ではあるが、鎧甲冑ノ一族ガルマ・カルマの軍は撤退を余儀なくされ、残る二つの軍もこの一報を聞き、戦場を散々引っ掻き回した邪魔者は居なくなったと、微かに残る気力を振り絞り、満身創痍の敵を殲滅すべしとそれぞれ躍起になる。
 愈々、この永く続いた戦争に終止符が打たれるのも時間の問題であった。

「ハデスが撤退…ソトースがやったのか……?」
 ヴルトゥームを圧倒していた戟使いの男は呟く。
 ヨグ=ソトースという者は、“セイバース”軍の准将であり、力の位は副将に次ぐ。
 つまりは“セイバース”の三番手にあたる実力者だ。
 大戦以前より、ソトースの強さを知らない者は居ない程で、この戟使いは、どの軍にも属してはいない中立の立場だが、ソトースとは以前より交友があった為、尚更、彼の実力をよく把握していた。
 “セイバース”と“カイザース”の大将同士と副将同士が相対していた筈となると、ハデスを倒した相手としてその名前が挙がるのは必然とも云える。
 そして、考えられるとしたら、あともうヒトリ・・・・・居るのだが……。
「ソトースは確かアイツ・・・と敵対して……。奴等が共闘っていうのも考え難いが……」
 今此処には居ない者達の事を言っても仕方が無いであろうとばかりに、戟使いの呟きは、ヴルトゥームの下に駆け付けた美女の声に再び遮られた。
「この戦争も直に終わるわ……。私達ももう撤退しましょう」
「……そうだな。もう此処に居ても意味は成さないか」
「……! 行くのか ヴルトゥーム」
「あぁ…この戦争に便乗し、計画の準備を整えておく手筈だったが結局叶わずだ……。だが、私は絶対に諦めないぞ……! “シェデンの果実”を必ず手中に収めてやる……!!」
「!?」
 ヴルトゥームが放った言葉に戟使いは度肝を抜かれた。

 『シェデンの果実』――――初代“聖創神”ルーピナスが曾て創った禁断の神器の一つ。
 その果実を口にした者は、あらゆる願いを叶える事が出来ると云われているのだが、悪意ある者の手に渡る事を恐れ、ルーピナス自身がとある惑星・・・・・に封印したとされている。
「お前達、まさか……見つけたのか?! あの禁断の果実を…!!」
「その通り。しかし……眠っている場所を割り当てられたのは良いが、それを手にするには二つの条件・・・・・があってな」
「条件…だと!?」
「先程も云ったが、その条件を満たすにはお前の力が必要なのだ……」
「……どういう事だ」
「……又、お前に遭いに来る。その時に良い返事を貰えるなら、全て話してやろう」
 ヴルトゥームがそう言い放つと同時に、彼の仲間のフルールという美女はその場から逃げる為の時空の孔を傍の空間に作り出した。
 そして、時空の孔に進みながら、ヴルトゥームは続けて言う。
「もし、この誘いに乗らないと云うのなら……お前のガールフレンド」
「……!!」
「名前は確か……“ミヤラ”だったな。彼女を代わりに――」
 言い終わる前に、戟使いは手に持つ巨大な戟を振り切り、ヴルトゥーム目掛けて斬撃を放つ。
 しかし、それは目標に届く事なく、フルールの出した光の盾によって弾かれた。
「ミヤラが……何だって?」
 彼の言葉には、尋常ではない怒りの念が含まれていた。
「ヴルトゥーム! 余計な事を云うのはやめなさいよ!!」
「……あぁ、済まない。往こう」
「待て!!」
 戟使いが引き止めようとするも既に遅く、ヴルトゥームらは時空の孔へと消え入る寸前であった。

「又、遭おう。――――サバクリュウト――――」
 そう呼び、ヴルトゥームは去っていった。
 その横に居るフルールも、リュウトと呼ばれる者を複雑そうに睨み付けながら――――。

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 暫くして、『第弐次神界大戦セカンド・アーマゲルドラ』は終戦を迎えた。
 両軍の大将である阿迦奢とアバドンは共に戦死。(誰が斃したかは公になっていないが)
 数十年に渡り続いた激戦は、虚しい結末で幕を閉じたのであった。

 ヴルトゥームがこの時言い残していた“シェデンの果実”の行方と秘密。
 それが解き明かされるのは、数百年後の事……。
 その時の記録を今、此処に記す――――――。

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プロフィール

原作者の惨藤歪彌と申します。
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